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東京家庭裁判所 平成11年(少ハ)400018号 決定 1999年8月10日

本人 M・T(昭和53.10.25生)

主文

本人を平成12年1月3日まで中等少年院に継続して収容する。

理由

(本人の収容経緯)

本人は、平成10年9月4日、東京家庭裁判所において、窃盗保護事件により中等少年院送致決定を受け、同月9日に入院し、平成11年9月3日、少年院法11条1項ただし書きによる収容継続期間が満了することになる。

(申請の趣旨及び申請理由の要旨)

東北少年院長の申請の趣旨は、主文のとおりであり、その理由の要旨は、以下のとおりである。すなわち、本人は、平成11年6月16日付けで1級上に進級し、このまま順調に経過すると、本人の出院は通常は同年9月中旬であるが、本人が後記のとおり、自動車整備士の資格試験の受験を希望しているため、その受験日の翌日である同年10月4日の予定である。しかし、本人の収容継続の期間は、前記のとおり、同年9月3日であるところ、これまでの処遇の経過を見ると、本人の問題点である自己中心性、被害意識、依存心の強さ及び自己表現力のなさはある程度改善されたが、非行の背景にある不安定な家族関係、特に両親との関係において、両親に少年の気持ちを受け入れるだけの体勢ができているか不安があるほか、出院後の不良仲間との現実的な対応の仕方についての教育は今後の出院準備教育で行われるものであって、その処遇効果を見極める必要がある。また、少年院における教育を実効あるものにするためには相当期間の保護観察が必要である。以上の少年院における処遇期間の確保と出院後必要とされる保護観察の期間を考慮すると、平成11年9月4日から主文掲記の日までの4か月間の収容継続が必要であるというのである。

(当裁判所の判断)

再鑑別結果通知書を含む一件記録及び審判の結果によれば、本人は、入院以来約11か月を経過したが、平成11年6月16日に1級上(出院準備過程)に進級した。これまでの間、本人は、少年院送致決定を被害的に受け止め、成人共犯者や離婚した両親に責任転嫁するような当初の構えから、次第に自分自身の問題点に気付き、周囲との協調を心掛け、自分の感情を統制しようとの姿勢や自己を客観視することができるようになり、長年のわだかまりであった両親の離婚原因についても面会等を通じ直接話し合うことで理解を示せるようになって、情緒的にも安定し、職業指導や教科教育における資格取得に向けて積極的に取り組む姿勢が出てくるなど、資質面での変化向上が見られた。しかし他方、依然として家族を含む周囲に対し、自分の意見を受け容れてもらうために積極的に働きかける姿勢に乏しく、このままでは、社会においてストレスにさらされたとき、孤立感を強め自棄的になることが心配され、その場合にも自棄を起こさない強さを身に付けさせることが必要である。そして、長期的な見通しや目的意識に乏しく、その場その場の欲求に応じて行動しやすい上、従前からのプロ野球選手になりたいというような非現実的な夢を追うことなく、今後取得予定である自動車整備士の資格を活かすことも目標のひとつであることを再認識させるなど、努力の方法や方向性を明確にさせる必要があるなどの問題点があり、これらの問題性に気付かせ、それを内面化するためには、なお一定期間の教育が必要と考えられる。

そして、保護者父親は、本人を引き受ける意思を示し、前記帰住先も父親方であるが、地元に成人共犯者と思われる者が戻っていて、現にその者から少年がいつ帰るのかという問い合わせの電話が父親のもとに架かっており、そのため、本人は、一旦は父親の下に帰るものの、その後は父親の実家のある東大和市にアパートを借りて一人暮らしになるというのであり、その場合には、本人及び父親において、そこで予想される問題点とその対処の方法について具体的に考えさせる必要があるところ、父親は、審判において、社会復帰後昔の仲間から本人に誘いがある場合には、身を挺してこれを阻止すると述べているものの、本人及び父親に、その決意を一層強固なものとする働き掛けがなお必要である。また、本人自身、社会復帰後の職業として自動車関係を望んでいるが、具体的な勤務先については未確定で、保護司の世話で探すことが予想されるほか、本人は、前記の希望もあって、平成11年10月3日の自動車整備士の資格試験(学科)の受験を強く望み、そのために出院が遅れても構わないと述べている状況にある。

以上の事情からすると、本人の性格、帰住後の問題性、就職の目途及びこれと直結する自動車整備士の資格試験の受験日程等からすると、なお相応の期間施設内での教育と社会復帰後の生活における専門家の指導(保護観察)が必要であり、平成11年9月3日の満了をもって少年院から退院させるには不適当な状況にあると認められるから、今後特段のことがない限り、前記受験の翌日に出院することを前提に、申請どおり、平成12年1月3日までの間、中等少年院に収容を継続することが相当である。

よって、少年院法11条4項、少年審判規則55条により、主文のとおり決定する。

(裁判官 長島孝太郎)

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